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HN:
暮雨吉
自己紹介:
 東方(旧作)や音楽などで生きてます。
 ご用の方は以下からどうぞ。
 kuk-ku●chan.ne.jp(●→@)
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■文
~2009
十一十二十三十四十五十六十七十八十九二十


2010~

ろはに


■絵(準備中。)
2010~
≫■■■■■


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≪無題≫ 2010/3.2


駄目だ。駄目だ。何をしても、何を見ても。何処にいても、何処を見ても。椛の影が離れてくれない。
気がついたら彼女と同じことをしていた。なんでだろう。ペンを齧る癖も、耳を触る癖も、昔はなかったのに。いつからだろう。ペンに噛み痕がついて、耳を触っていないと落ち着かない、気付けばそうなってた。

「っぅ、ぁ…くぅ…う……」

全部が全部、椛のせいで。おかげで。
雨が少しずつ満ちていくように、椛は私の中で存在を膨らませていたのだ。
もう椛がいないと私はきっと死んでしまう。だって側にいるのが当たり前だったから、ずっといてくれるのが当たり前だったから。私があれをやりたい、これをしたいといえば、困ったように笑いながら何でも叶えてくれたから。
振り向いたら帰る道なんかとうに無くなっていて、前にある進む道も椛がいなければ歩いていけなどしない。
引っ張っているつもりが、本当に引っ張ってくれていたのは椛だったんだって、やっと気付いた。

「もみじ………」

あなたが、好きです。


「文様」

するはずのない声がして、痛くなるくらい勢いよく振り向いた。涙が滴り落ちて原稿を濡らしていくけれど、そんなことに構えるはずがない。

「…なん、で…?」
「においがしたから」

ちょん、と自分の鼻頭を指す。白狼天狗は鼻が利くんです。そう自慢げに笑うのは、間違いなく椛だった。
眩しくなるほどの銀髪と、ころころ色を変える橙の瞳と、夕暮れのような笑顔をもったひと。

「涙はね、悲しいにおいがするんです。文様からそのにおいがして、思わず飛び出てきちゃいました」

そのまま彼女が近づいてきて、やさしく私を抱きすくめる。びくりと身体が無意識に強張ってしまったけれど、おずおずと抱きしめかえした。あたたかいぬくもりがじんわりと伝わる。

「泣かないでください文様。貴方に泣かれてしまうと、わたしは何をすればいいのかわからなくなる」

椛は涙で濡れている私の頬を、犬のように舐めた。なんだ、いつもは犬って言うと怒るくせに、犬みたいな行動をしてるじゃない。
少し離れて、がしりと椛の頬を手ではさむ。そのまま引き寄せて、額をくっつけた。見つめあう。キスが出来そうなくらいに近い。目の前に彼女の顔が広がる。橙色の瞳に、黒い私が映る。

「そばにいて。だきしめて。私が泣いていたら、側にいて抱きしめてほしい」

がぶり。痕が残るくらいに、強く椛の鼻を噛んだ。最初こそ驚いて身を固めていたけれども、次第に解れて行って、いつもの、私の言うことを全部叶えてくれる困ったような笑顔を浮かべた。

「痛いですよ」
「椛の噛み癖が移っちゃったの」




あやもみ。ただいまのお蔵入り確率75%。二ヶ月前に書き始めた奴も満足に書き上げられないのかと。
一応現時点での椛像。昔は赤目派でした。気まぐれに書いた橙が気に入ったので今では橙目です。


            feel chilly.




ふ、と瞳を閉じる。
目の前に広がるのは、黒よりも真っ暗な闇色。
「………」
二三秒の間だけ、目を閉じていたけれど、すぐに開けた。
目の前に広がるのは、いつもと変わらない自身の部屋。
ため息ともとれる息を吐いて、さとりは机の上に置いてある、読みかけの本を手に取った。紫陽花色の栞をはさんであるページを開いて黙々と読み始める。
元より静かなさとりの部屋がよりいっそう、静寂に包まれる。
お燐もおくうも今は仕事の真っ只中。死臭と熱の漂う灼熱地獄跡を精一杯、火力調整している。
近くには誰もいない。さとりの三つ目に映る思念は何もないから。
ページをめくる。
紫色の瞳が、文字を追う。
「………」
今の彼女には自身の息づかいすら聞こえない。集中するとはそういうことである。




古明地こいしの無意識はとてもユニークである。
無意識のままに行動し、無意識のままに笑い、無意識のままに話し、無意識のままに殺す。
無意識の奥底に感情を置き去りにしてしまったこいしの代わりに、その表情をころころと変えるのだ。
いつだって気付くと無意識であったし、目の前で人が笑っていたり泣いていたり怒っていたり喜んでいたり、はたまた死んでいたりと、そんなことは至極日常 茶飯事なのだった。彼女はそれらをすべて道端にあった小石を踏んづけて、あぁこんなところに小石があるな、といった体に片付けることができる。
今だって気付けば目の前でよくわからない肉塊が転がっていた。無意識でやってしまったらしい。されど気付いたとて、こいしはどうするでもない。
人であったのか、妖であったのか、見た限りではわからないし、こいしにとってそれはただの『肉塊』であり、『小石』と同義である。踏んづけて通り去るだけだ。ぐちゃりと緩い音がした。
「ッば、け…もの…っ!」
不意にそんな声が耳を刺し、のろりと首を聞こえた方向へ向ける。
「あれ。お兄さん、いたんだね」
気付かなかったよ。にこにこ心なく笑うこいしの笑顔によりいっそう、男の顔が歪んだ。服からのぞく太く逞しい手足がぶるぶると震えていた。
何故彼がここにいるのか、そんなことに興味を持つはずはなく、こいしは再びふらふらと歩き始めた。最初こそ意識的に歩いていたものの、三歩程度歩いたと ころでもう意識は無意識に侵されかけていた。うっすらと眠っているような空白。地面を踏みしめる感覚も、動かしている足の感覚も、なんだか朧気であった。 たしかに歩いているというのに。
不意に何か大きな衝撃が頭を襲った。無意識が溶ける。意識が固まる。
落ちてしまった帽子を視界に入れてからこいしは振り返った。目の前にはさきほどの男。玉のような汗を流しながら大きな石を片手に携え、驚きに歪んだ表情を見せていた。
ふらりと、こいしの足元がぐらつく。視界がぐるぐる円を描き始める。覚りは妖怪と言えど、身体能力は人間と大して差はない。男はこいしの様子に安堵したようだった。なんだ、こいつは大したことがない、と。
腕が音もなく振るわれる。それは真っ直ぐに男の首を切り落とした。彼には何が起こったのかさえもわからなかっただろう。気付けば目の前に地面が広がっていた。疑問を持ち、考えようとしたところで、こいしの足で思い切り踏み潰されて彼は死んだ。
古明地こいしは覚り妖怪であってそうではないイレギュラーな存在である。故に身体能力は大抵の妖怪を大いに凌ぐほどのものだ。人間の腕力程度で振りかざされた石を喰らっても何ら問題はない。転がってしまったお気に入りの帽子を拾い上げ、汚れを簡単に払って頭に、かぶる寸前で髪から滴る血に気付く。血は固まるとなかなかに落ちないし、帽子は洗いにくい。何よりもお気に入りである。汚したくないとかぶるのはやめて落とさぬよう抱えた。
そうして彼女はふらりと地霊殿へ足を向ける。血をさっさと落とすべく、数週間ぶりにペットと姉の姿を見るべく。




今日は妹が帰ってきそうな気がする。さとりは前触れもなくそう思い、ティーカップを二人分用意する。紅茶も二人分。こいしは甘党だから角砂糖を忘れずに。気まぐれにミルクもつけておいた。確証も何もないのにそこまでやって、自分でなんだか不思議な感じだと思った。
自室に戻ったところですぐに紅茶は淹れず読書をして少し冷めるまで待つ。猫舌なのだ。熱いものはどうにも苦手である。
字を追って、ページをめくる。あと数ページで読了する。紅茶も良い塩梅にぬるくなっているだろう。黙々と読みすすめて、その細い指先が最後のページをめくろうとする。
「…………こいし」
瞬いたその間に本が取り上げられて代わりに妹がそこにいた。惜しい、ここをめくれば読み終われたのに。心の中で少し残念そうに思う。それを覚られたのか、こいしの笑みが深くなる。
「残念でした。こいしちゃんに構ってくれないと読ませないよ?」
「もっと普通に入ってきなさい。びっくりします」
「無意識に普通も何もないよ。それに驚いてないでしょおねーちゃん」
薄い黄緑色の瞳がさとりの表情を映す。そこにいる彼女は確かにたいして驚いた様子はない。もともと感情には乏しい方だ。無愛想、といえばそうなのかもしれない。
その反応が楽しいのか楽しくないのか、よくわからないがこいしは変わらずに笑みだけを浮かべている。そういえばおかえりを言ってなかったと思ってさとり が口を開こうとしたその時に、不意にこいしの腕が腰に回されて身体がくっ付き合う。さとりは口を閉ざした。自然と互いの肩口に自身の顎がのって表情が見え なくなった。少し離れれば、見えるようになるけれど、さとりはこいしに対して何事も受身になる傾向がある。何をするにもされるがままに、望むなら望むまま に。故に抱きしめてきたならば大人しく抱きしめられることにする。
テーブルに載ったままのティーセットが見えた。放ったままにし過ぎて冷たくなってしまっただろうか。そこまで考えていつの間にか淹れられていたことに気付く。こいしだろうか、きっちり二人分カップに注がれている。
幽かに妹から紅茶の香りが漂う。よく見れば角砂糖が二、三個辺り減っているし、カップの一つは半分ほど飲まれている。妹の手の速さに自然と笑みがこぼれ た。回そうか迷っていた腕をそっとこいしの背中に回す。む?、意外そうな声が聞こえたがさとりは無視をした。より一層くっ付き合って、そこで紅茶の香りに 混じった血の匂いを感じた。
「ねぇ、こいし」
「なぁに」
「もしかして怪我してるの」
「してない。こんなの怪我の内に入らない」
「しているんじゃないですか。すぐに手当てします」
さとりはその場から立ち上がろうとこいしから離れる。しかしこいしは腕に力を込めて密着してくる。別にしなくていい。ぶっきらぼうに言い放った。視界の端に、彼女の白い髪を伝って流れる血が見えた。
「お姉ちゃんが撫でてくれた方が一番効果的だよ。ねぇお姉ちゃん。頭、撫でて」
滴る彼女の血が服を汚す。空色の生地に点々と斑が描かれていく様をじっと見つめた。もしかしたら落ちなくなるかもしれないけれど、抱きついてくる腕をどうにも振りほどく気にはなれなかった。
出血している箇所であろう後頭部に手を添え、ゆっくり撫でる。触れた途端手に血がついた。さとりは、無視をした。撫でるたびに手と服が血に塗れていく。こいしは平気そうにしているが存外傷は大きいのかもしれない、さとりからしてみれば結構な量の血液が流れている気がする。妹は何も言わない。何も言ってくれない。すべてを覚るはずの第三の眼だって、何も映しはしない。
「…どうしたのです、これは」
「殴られちゃった。なんでだろ。相手が無意識だったからかな、わたしが半端な無意識だったからかな」
「大丈夫ですか?」
「おねえちゃんが撫でてくれてるからへーき。もっとなでて」
はいはい、とその要望を叶えるけれどやはり出血は治まらない。
「やはり、手当てした方が」
「いいんだってば」
ぴたりとさとりの手が止まる。ようやくそこでこいしは体を離して、互いに顔を見せ合った。
こいしは相変わらず笑みを浮かべて、さとりは少しだけ、不安げな表情だった。
「離れたくないよ」
その声に、出そうになった言葉を飲み込んだ。通り過ぎていく喉が痛む。耐えるように歯を食いしばる。
妹は姉の頬に手を添えた。少し迷って、触れようと伸ばした手がこいしの血に濡れていたから、さとりはまぶたとともにその手を静かに下ろした。
離れていってしまうのは、こいしのくせに。
吐いたため息に飲み込んだ言葉を判らないように混ぜ込んだ。なぁにおねえちゃん、ため息なんか吐いちゃって。こいしが呆れたように笑った。なんでもありませんよ。誤魔化すように慣れない笑顔を作った。
きっと用意した紅茶はすっかり冷めてしまっているだろう。人肌に温めておいたミルクだって。冷めてしまったものほどまずいものはない。熱いものは苦手だけれど、冷たいものは大嫌いだ。ぬるいくらいが、一番いい。ぱりぱりと手のひらの血が黒くかわいていく。ぬくもりが消えていく。冷たくなっていく。冷たいものは嫌い、人肌がいい。冷たくかわいてしまった血ほどなかなかに落ちないものはない。どんなに洗ってもどんなにこすっても、落ちてくれなどしない。こいしがいない冷たさによく似ていると、さとりは思った。
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