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私を忘れないで。
まず何よりも、驚いた。
「す、諏訪子…?」
そのせいで声が震えた。と云うよりも全身が震えている気がする。
目の前の少女は滅多に見せる事のない涙を、しかも自分の目の前で、流しているのだ。驚かない訳が無い。
縋る様に伸ばされたか弱い諏訪子の腕はしっかりと神奈子を捕まえて、独り占めするようにぐいと引っ張る。抗う事すら、忘れていた。神奈子は思う儘に動く。
生温かい涙は服越しにしっかりと伝わる。これが何を意味するのかは、まだ神奈子には解らない。
「何…どうしたのよ、」
ぽすんと優しく細い肩に手を載せる。赤子をあやすように、優しく包み込むように、母親のように、温かく。ひくっ、引き攣った喉の音が聞こえた。
「みんな、」
「みんな…忘れていってしまうの、」
「私の事を」
嗚呼。
そう言う事か。
途切れ途切れの言葉へ、憐れむ様に眼を細めた。
「神奈子は、どうか神奈子だけは、私を忘れないで」
少女の切なる願い。それは耐え切れなくなった証。己が忘却されていく恐怖に。不安に。悲しみに。
「ずっとずっと、私を覚えていて」
震えている細い肩からそっと手を離した。
自分に、この肩に触れている権利は無いと、慰める権利は無いと、縋られる権利は無いと、思ったから。
自分よりもこんなに細く、か弱い少女が長く長くこんな恐怖と不安と悲しみに苛まれていた事に、どうして自分は気付かなかったのだろう。
何処の人間よりも、何処の妖怪よりも、何処の精霊よりも、何よりも、誰よりも近くに居たと云うのに。
まず何よりも、謝りたかった。
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