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プロフィール
HN:
暮雨吉
自己紹介:
 東方(旧作)や音楽などで生きてます。
 ご用の方は以下からどうぞ。
 kuk-ku●chan.ne.jp(●→@)
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暇、遠くで聞こえた気がした。衣玖はそれを無視する。ひまひま、今度ははっきりと聞こえた。それでも無視を決め込む。暇ぁ!最後に近くで聞こえ、衣玖に何かが突進。予期せぬ自体に彼女は反応が出来ずにそのまま倒れた。
「衣玖ー!暇ぁー!清清しく暇ぁー!」
清清しく暇、とは、一体どういう意味だろう。言葉通り清清しいくらい暇なのだろうか。ぼんやりと衣玖は思いながら、突進ではなくボディーブローをかました天子を見上げる。子供が駄々をこねるような表情でこちらをじっとりと見ていた。
たぶんこころのうちを読むとしたら、簡潔に「暇」。
「…暇でも何でも突進しないでください痛いです重いですそしてうるさいです」
「総領の娘にその口の利き方は何よ!」
「素直に言ったまでですよ」
むぅ、と目の前の幼い顔がむくれた。どうでもいいから衣玖は暫く背中や顎や首やその他諸々現在ものすごく痛い箇所の痛みが退くまで、その幼い顔の持ち主を 放置しておくことに決めた。出来ればこうして放置している間に天子が飽きて、他の人物の所へ行ってしまえばいいとも思う。きっと叶わないだろう、なんて。 解っているけれども。
今自分たちがいる場所、つまり天界は、何も無い。強いて言えば桃と酒、あとは天人たちの宴。それくらいしかない。
地上の人間たちはどうやらこの天界に恋焦がれているようだけれど、こんな何も無いところ、求めた所で何も無いから何も得ることは出来ないだろう。
天界は何も無い所。そして目の前にいる天子は遊びたい年頃。つまり何も無い天界は天子にとって退屈なもの以外の何者でもないのだ。だからその暇を解消するために彼女は衣玖の所へとやってくる。
そこまでは別に、衣玖にとって何て事はない。彼女も暇なのである。しかしそれ以降が彼女にとって迷惑なものになる。
暇を解消するために天子はとんでもないことを行おうとし、代表的なのがこの前の紅い雲であるが、その度に衣玖は阻止したりたまに出来なくて巻き込まれたりと精神をすり減らしていた。
それでも、仕方がないと受け入れてしまっている自分もいる。
ため息を一つ零す。そんな迷惑な天子に、しかし何もかも甘受している自身に対して。
「暇なら地上から来た鬼のところへ行ってみたらどうです?潰せるでしょう、暇ぐらい」
言いながら痛みがようやく退いたので、天子に手で退くように指示をする。彼女は珍しく躊躇うことも無く従い、そっと立ち上がった。
そうしてから少しの間考えるように顎に手を添え、数秒後になにかを閃いたらしく口を開いた。
「そうね、じゃあ衣玖も行きましょう」
先ほどの問いに天子はそうにっこり笑いながら答え、手を差し伸べてきた。衣玖は少しだけ、伸べられた手に目を見開く。
「…拒否権はなしですか」
「当たり前じゃない。貴女がいないと楽しくないもの」
ね、と念を押されて、しかもそんなことを言われては仕方がない。諦めて衣玖はその手を取る。そうして天子の力を借りながら立ち上がった。彼女の笑顔がより一層深まり機嫌がよくなる。
行くわよ、声を掛けられ手を取られたまま一緒に歩き出した。向かうは鬼の所。いざ潰さん暇。嬉しそうに繋いだ手を天子は遠慮なくぶんぶん振る。腕が痛くなったけれども、そのままにさせておいた。
ため息を衣玖は一つ零す。
そんな迷惑な幼心地と、そんな幼心地の何もかもを甘受している自身に対して。



迷惑でもやっぱり、貴女といるのは楽しいから。
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羽衣を取られた天女は天に帰れないため、取った相手と結婚をすると云う。
「……」
「な、なんですかその眼はっ?」
今の天子の衣玖を見る眼は、好奇心に満ち溢れている。つまり衣玖の羽衣を取ってやろうだとか如何せん邪な考えを持っているということになる。
身の危険を感じた衣玖は羽衣を庇うように抱えた。
その態度を見て少し拗ねたような表情を浮かべ、天子は諦めたように視線を逸らした。衣玖はやれやれと肩をすくめる代わりに込めていた力を抜く。
「隙ありいいいいいいい!!」
「っ!?」
その隙を、突かれた。
ガツン、悲鳴を上げる暇も無く押し倒され、悲鳴を呑み込む程の痛みが頭に走る。涙が少し出たかもしれない。痛む後頭部を衣玖はさする。
目の前にいてつまり衣玖の上に乗っかっている天子は勝ち誇ったような表情を浮かべる。今の体勢の意味が解っているのかいないのか、多分解っていないだろう。第一彼女は目的を果たせるならば他人の気持ちなど微塵も考えず実行に移す。今のこの体勢が良いたとえだ。
衣玖は羞恥で一度顔を赤く染め、しかし次は一気に蒼白になる。これは、ヤバイ。
「さぁ衣玖!観念しなさい!」
「観念も何も無いですよ!」
ばたばたと暴れてみる。これはそこそこ作業妨害ができるらしく、天子は鬱陶しそうに表情を歪めた。
「それに、その伝説には続きがあるんですよ!」
今の今まで衣玖の手から羽衣を取ろうと忙しなく動いていた天子の腕がぴたりといきなり止まって少しだけ驚く。そしてしめた、とも思う。チャンスだと言わんばかりに衣玖は口許を少し緩めて言葉を紡ぎ続けた。
「…結婚した後その天女と人間は子を授けました。ですが天女は、羽衣が見つかったらそれらを捨てて天界へ帰ったのです」
羽衣を取られた天女と取った人間が結婚したのは、もちろん本当だ。そして子を授けたのも、本当。
そして天女は取られていた羽衣を取り返すと夫は勿論、子供まで見捨てて天界へ帰っていってしまったのも、本当のこと。
彼女自身がその人間と結ばれることを望んだわけじゃない。
けれど、それでも、結婚して、子供まで授けたのだから、それなりの感情はあったのだろう。
それをなんの躊躇いも無く切れるなんて。
否もしかしたら悩んだのかもしれないけれど、それでも結果的にそれらを全て捨てて天界に帰ってしまった。
「私はそんなことしたくないです」
そんな生半可な気持ちで結婚なんかしたくない。
そんな潔く人を見捨てて行きたくなんかない。
「…衣玖、」
「だからどうか、お止め下さいませんか」
本音だ、正真正銘の。
その伝説の二の舞になるようなことは絶対にしたくないという、本音。
こんなに自分の意見を述べるのは久しぶりかもしれない。今まであまり自分というものを主張していなかったから。
「……」
天子は答えない。何かを考え込むように、衣玖をじぃと見つめている。これは受理か、それとも拒否か。
「羽衣を取るのはやめてあげる」
漸く、彼女の口が開いた。どうやら受理をしてくれたようだ。衣玖はふぅと一息吐いて、また肩をすくめる代わりに力を抜く。
「けど、貴女を私でいっぱいするのはやめない」
「え」
なんだ、それ。
ポカンと間抜けに浮かべた表情を天子は薄く笑う。なんて無防備なんだろう、おかしいからひとつ口付けを落としてみた。
「っ、」
彼女が息を呑んだのが判った。
「それで衣玖が私でいっぱいになったら、私に羽衣頂戴ね」
唇を離してにこりと微笑みかけてみたら衣玖は真っ赤になって固まってしまった。天子はまた薄く笑う。時間の問題だ。その内私の所へ来て顔を真っ赤にしながら怖ず怖ずと羽衣を渡してくるだろう。嗚呼楽しみだ、非常に。
「…っ、…」
何か言おうとして、上手く言葉が出てこなかったから渋々呑み込んだ。
つくづく、いやらしい人だと、いやらしいやり方をすると、思う。こんなに人を搔き乱して。
もうきっと、いっぱいなんじゃないだろうか、あなたで。



A lot


「恋はするものじゃなくて堕ちるものよ」
「……は?」
「解らなければ解らなくていいの。そのうち解るはずだから」
お嬢様、切り返す暇も与えずにまさにあっと言う間、彼女は文字通り霧のように行ってしまった。ただ蝙蝠になってゆらりゆらりと飛んでいってしまっただけだ けど。図書館か、地下室か、どちらかに向かったと思う。あとで紅茶をお持ちしなくては。掃除の次にするべき仕事を決めて、行動に移す前にお嬢様の言葉を思 い返した。
恋はするものじゃなくて堕ちるものよ。一字一句間違えずに、それどころかその時のお嬢様の表情、唇の動き、蛇足ながら瞳の中に映った自身の姿かたち、表情 まで覚えている。特に意味はないけれども。長年彼女の側に仕えてきたが、言葉の真意は深く深く、そして宵闇の妖怪が生み出す闇よりも黒く黒く、見つけ出す ことが出来ない。うぅん、いつのまにか顎に手を当て、唸っていた。
「如何謂う意味かしら…」
次いで出てきた言葉に答えるものはいない。それに何処と無く空しさを感じて、一つため息を吐き残っている掃除を再開しようと不意に窓に視線を向ける。水色 の物体が目に入り、目を細めて鮮明に捉えようとした途中に、あの五月蝿い氷精だと気付く。楽しげに大妖精とともに戯れているようだ。
紅魔館のほぼ目の前には広大に広がる紅魔湖がある。五月蝿い氷精はあそこでよく遊んでいるため、姿を見かけるのは珍しくも何ともない。
今日も今日とて遊んでいるのだと少しの間見つめていたら、見覚えのある後ろ姿がその妖精の輪に交ざっているのに気付いた。そいつは妖精と同じように、楽しげに戯れて。
「…何やってんの。あの門番……」
ぴき、厭な音が頭に響く。
それと同時に誰かが湖に落ちる音が聞こえた。






ぎゃあっ、咲夜さんっ!?、といういかにも私に見つかっては不味かったような声の直後に、ナイフを投げつけてそいつの頭にぶっ刺してやった。すこん、実際 音は鳴らなかったものの、もしも鳴ったとしたらそんな音だろう。そいつは悲鳴を短く上げ、その場にしゃがみ込み悶え転げそうになる身体を必死に抑えながら 刺さった部分に手をかざし痛みに耐えている。滑稽、口の端が攣り上がった。
「あううう…痛いです咲夜さぁん…」
ようやく話せる程度まで痛みが落ち着いたのか、しゃがみ込んだままそいつ―紅魔館の門番、紅美鈴はこちらを涙目で見、痛みを訴えてくる。ざまぁみろという 気持ちを込めてもう一本刺す気はなかったものの投げつけてやったらまた刺さった。ぎゃあああ、美鈴の悲鳴が耳を打つ。そしてまた彼女は痛みに静かに耐え る。
はぁ、ため息を一つ吐いて、彼女をじっと見た。流石に二本目はきつかったのだろうか、未だに耐えている。その後ろ姿、正しくは美鈴の服に視線を移す。じん わりと彼女の緑色が深い色へと変わっている。さきほどの誰かが湖へ落ちる音は、彼女だったらしい。予想はしていた。大方戯れていた氷精が悪戯で突き落とし たのだろう、ともにいたであろう大妖精がやるとは考えにくい。ちなみにその五月蝿い氷精どもの姿は無かった。私が来て美鈴にナイフを投げつけた所を目撃 し、慌てた大妖精が氷精とともにテレポートで逃げたのだろう。
「全く…、仕事サボって氷精と遊んで、その氷精に突き落とされてびしょ濡れになって…」
「す、すいません…」
「何なの? 馬鹿なの? そんなに死にたいの?」
「ごめんなさい…」
謝ってばかりじゃなくて、ちゃんと仕事をしなさい。その言葉はため息に呑まれた。はぁあああ、深い深いため息だった。自分でもこんなため息が出るとは思わなかったため、少し驚いた。
「本当なら今すぐ説教だけど、…ほら、冷えるでしょ。こっち来なさい」
大人しく私の元へ来た美鈴の顔を、持ってきたタオルで一先ず拭いてやる。揺れる髪の毛から、水滴がぽたりぽたりと落ちてきた。彼女の身長は私より約頭一つ分ぐらい高いため自然とその水滴は私にかかる。それは張り詰めたようにと冷たかった。
「わっ、咲夜さん、良いですよ。自分でやります」
慌てふためく美鈴を無言で制す。いいから、という思いを目に込めて見つめたら伝わったらしく、少し申し訳なさそうにしながらも為すが儘に身を委ねてきた。私は黙々と作業を進める。
髪の毛を拭くため、帽子を取るように指示する。はい、と答え美鈴は帽子を取り手におさめた。
彼女の身長は私より約頭一個分高い。多少靴で上げ底をしているものの、微々たるものであり背伸びをしなければ、むしろ背伸びをしても届くかどうか。無論その時の私は例外なく背伸びをし、タオルで美鈴の髪の毛を拭こうとした。
そのせつなに、
「なんだか可愛いですね」
ぴたりと体の動きがすべて止まった。文字通りすべて。動作も、呼吸も、思考も。
その時はすべて止まってしまった。
「いつも完璧で大人な咲夜さんが、不器用で子供みたいな背伸びしてるから」
無邪気に笑う美鈴の顔が止まった時の中で妙に映える。それを見たら急に、顔が熱くなった。頬にかかっている冷たい水滴が、ドライアイスのようなつめたさと痛みに変わった。
いつもならすぐに何か言えるのに。
いつもならすぐにナイフを投げつけるのに。
いつもなら、こんな、
「ばっ…!!!」
動転なんかしたりしないのに。
落ち着け十六夜咲夜、落ち着くのよ。そんな気持ちとは裏腹に顔は熱くなるばかりで、言葉は出てこないばかりで、身体は動かないばかりで。
「…? さ、咲夜さん? どうかしましたか?」
気遣う言葉がかけられ、そして困ったような美鈴の顔が少し近づくから思わず俯いた。露骨な反応しかできない自分を呪いたくなった。それから、頭の位置が心 臓と近づいたからか、より一層顔が熱くなってもうどうしようも出来ない。水滴は相変わらず私につめたさと痛みを与えるだけで、冷やしてくれなどしない。
(水も滴る良い女、だったかしら…ああもう、何考えてんの私はっ)
このタイミングで思い出すとは、本当に自分を呪いたい。今度丑の刻参りでも実行してこようか。
(ああ…もう…らしくない…)
こんな状態の私を美鈴はどう思っているだろうか。俯いているから彼女の表情などは見えないけれど、多分慌てふためいてオロオロしてると思う。
そんな暇があるならこの熱を奪って欲しい、その冷えた身体で。




Fall in Love.

(あの時私は彼女に堕ちた。)
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