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暮雨吉
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 東方(旧作)や音楽などで生きてます。
 ご用の方は以下からどうぞ。
 kuk-ku●chan.ne.jp(●→@)
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そんな顔で笑わないで。
瞬きをしたら消えてしまいそうだから。


強く。強く。強く。
抱き締める。抱き締める。抱き締める。
壊れてしまうんじゃないかと思うくらいに強く抱き締める。
そうでもしないと怖くて。
「早苗?」
声がして、身体を離す。
そこにはきょとんとこちらを真っ直ぐ見つめる瞳があった。
「どうかしたの?」
小首を少しだけ傾げて、可愛らしく訊いて来る。
無知と言うのは罪だと何処かで聞いた気がする。何となく解った気がして堪らなく悲しくなった。
「言いたくないなら、別に言わなくても良いよ」
無言をそう受け取ったらしい。ぽんと優しく手を頭に載せて、同じ様に優しく撫でる。
そして、浮かべるあの笑顔。
怖くて悲しくて切なくて苦しくて思わず涙が出そうになる。いやきっともう出ているんじゃないだろうか。
泣き顔を見せたくなくて彼女の首筋に顔を埋める。
今もまだ彼女はあの笑顔を浮かべているのだろうか。
「諏訪子様…」


お願いだから。
そんな顔で笑わないで。
(その笑顔がとても儚くて)
瞬きをしたら消えてしまいそうだから。
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私を忘れないで。



まず何よりも、驚いた。
「す、諏訪子…?」
そのせいで声が震えた。と云うよりも全身が震えている気がする。
目の前の少女は滅多に見せる事のない涙を、しかも自分の目の前で、流しているのだ。驚かない訳が無い。
縋る様に伸ばされたか弱い諏訪子の腕はしっかりと神奈子を捕まえて、独り占めするようにぐいと引っ張る。抗う事すら、忘れていた。神奈子は思う儘に動く。
生温かい涙は服越しにしっかりと伝わる。これが何を意味するのかは、まだ神奈子には解らない。
「何…どうしたのよ、」
ぽすんと優しく細い肩に手を載せる。赤子をあやすように、優しく包み込むように、母親のように、温かく。ひくっ、引き攣った喉の音が聞こえた。
「みんな、」
「みんな…忘れていってしまうの、」
「私の事を」
嗚呼。
そう言う事か。
途切れ途切れの言葉へ、憐れむ様に眼を細めた。
「神奈子は、どうか神奈子だけは、私を忘れないで」
少女の切なる願い。それは耐え切れなくなった証。己が忘却されていく恐怖に。不安に。悲しみに。
「ずっとずっと、私を覚えていて」
震えている細い肩からそっと手を離した。
自分に、この肩に触れている権利は無いと、慰める権利は無いと、縋られる権利は無いと、思ったから。
自分よりもこんなに細く、か弱い少女が長く長くこんな恐怖と不安と悲しみに苛まれていた事に、どうして自分は気付かなかったのだろう。
何処の人間よりも、何処の妖怪よりも、何処の精霊よりも、何よりも、誰よりも近くに居たと云うのに。

まず何よりも、謝りたかった。



昔、学校の同級生にいじめられていた。
大抵木の陰や人目のつかない所で一人でずっと泣いていた。




「結構、普通に行けたりするんですね」
幻想郷の山深く。人気がなくただ木々の擦れる音のみが支配するところ。神社と近くの湖とともに今度から此処に住む事になった。
もう外の世界―かつて住んでいた世界では信仰が集められないから、だ。
今は所謂引越しの後片付け等に追われていた。
それの一休みにふと早苗がポツリと漏らした、言葉。
幻想郷は外の世界で幻想になったものが流れ込んでくる世界。早苗にとって幻のような―否、正に幻想のような、空想のような、遠い存在。ずっと行く事は出来ないと思っていた世界。
案外、簡単に行けて驚いているのだろう。
「……………」
ぼう、と空を仰ぐ。澄み渡ったような、透き通るような、青空と云うよりも水色に近い。雲はもうもうと唯漂う。綺麗だと素直に感じられた。
外の世界ではこんな綺麗な空は無い。
周りを見回してみた。山奥の木々に囲まれて緑が沢山在る。木々の擦れるさらさらとした音は子守唄代わりに、此の儘眠れてしまいそうで、でもまだ眠ってはいけない。やる事があるから。
外の世界ではこんな綺麗な山は無い。
これらは全て失われたものだから。
幻想郷は外の世界で幻想になったものが流れ込んでくる世界。
だから自分たちも此処へ流れ込んできた。
幻想に、
なった、から。
「…………………っ」
堰が流れ込んで来る。抗いようの無い、素直な感情が。
思わず、其の場から飛び出してしまった。



「さーなーえー」
諏訪子の唇から放たれる言葉に答える声は居ない。しんと静まり返る神社がその言葉を飲み込んで消した。
きらりと輝く金色の瞳はきょろきょろと求めている人影を探す。しかしどれほど探しても、どれほど歩き回っても、見つからない。
こてんと首を傾げて唸る。
「あーうー…何処行ったんだろ…。まだ全部片付いてないと思うのに」
悲しそうに少しだけ伏せた瞳で庭に敷き詰められた砂利を見つめる。まるで答えを求めるように。けれど答えてなどくれやしない。解っている、そんな事。
「諏訪子、どうしたの」
ひょこりと顔を出した神奈子が寂しそうな背中に声を掛ける。
「早苗がいないの」
背中を向けたまま、まるでいじけてるように諏訪子は答えた。



受け入れなければいけない、それが此処で生きていく為に必要な事だから。だけどそれでも受け入れられなかった。認めたくない。少女は揺れる。
気が付けば見覚えの無い所にまで来ていた。
しまった。感情に任せて飛び出してしまったのがいけなかった。しかし今更気付いても遅い。
「…馬鹿だ、私」
一人ぽつりと呪詛を呟いた。どうにもならないけれど呟かずには居られなかった。
近くに在る太く大きな木に寄りかかる。
少し、疲れた。
「………ぁ」
見覚えのある木に無意識に声が零れる。微かに香るのは昔の記憶。心に根付いた記憶。
あれは、たしか、

昔、学校の同級生にいじめられていた。
大抵木の陰や人目のつかない所で一人でずっと泣いていた。


(その時に、)

「早苗」
同調する。その時と被る。ああ、やっぱり。
聞き覚えのある声に振り向くと昔の記憶とやっぱり被って。思わず駆け出して抱き締めた。
「わっ、ちょ、さ、さなえっ」
驚いた声。やっぱり、やっぱり、やっぱり、変わらずに在る体温。

(その時に、声を掛けて、慰めてくれたんですよね。)

どんなに自分が変わっていっても、喩え幻想になっても、この体温は、腕の中に在る体温は確かに在ったのだ。

(諏訪子様。)




確かに在る体温
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