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羽衣を取られた天女は天に帰れないため、取った相手と結婚をすると云う。
「……」
「な、なんですかその眼はっ?」
今の天子の衣玖を見る眼は、好奇心に満ち溢れている。つまり衣玖の羽衣を取ってやろうだとか如何せん邪な考えを持っているということになる。
身の危険を感じた衣玖は羽衣を庇うように抱えた。
その態度を見て少し拗ねたような表情を浮かべ、天子は諦めたように視線を逸らした。衣玖はやれやれと肩をすくめる代わりに込めていた力を抜く。
「隙ありいいいいいいい!!」
「っ!?」
その隙を、突かれた。
ガツン、悲鳴を上げる暇も無く押し倒され、悲鳴を呑み込む程の痛みが頭に走る。涙が少し出たかもしれない。痛む後頭部を衣玖はさする。
目の前にいてつまり衣玖の上に乗っかっている天子は勝ち誇ったような表情を浮かべる。今の体勢の意味が解っているのかいないのか、多分解っていないだろう。第一彼女は目的を果たせるならば他人の気持ちなど微塵も考えず実行に移す。今のこの体勢が良いたとえだ。
衣玖は羞恥で一度顔を赤く染め、しかし次は一気に蒼白になる。これは、ヤバイ。
「さぁ衣玖!観念しなさい!」
「観念も何も無いですよ!」
ばたばたと暴れてみる。これはそこそこ作業妨害ができるらしく、天子は鬱陶しそうに表情を歪めた。
「それに、その伝説には続きがあるんですよ!」
今の今まで衣玖の手から羽衣を取ろうと忙しなく動いていた天子の腕がぴたりといきなり止まって少しだけ驚く。そしてしめた、とも思う。チャンスだと言わんばかりに衣玖は口許を少し緩めて言葉を紡ぎ続けた。
「…結婚した後その天女と人間は子を授けました。ですが天女は、羽衣が見つかったらそれらを捨てて天界へ帰ったのです」
羽衣を取られた天女と取った人間が結婚したのは、もちろん本当だ。そして子を授けたのも、本当。
そして天女は取られていた羽衣を取り返すと夫は勿論、子供まで見捨てて天界へ帰っていってしまったのも、本当のこと。
彼女自身がその人間と結ばれることを望んだわけじゃない。
けれど、それでも、結婚して、子供まで授けたのだから、それなりの感情はあったのだろう。
それをなんの躊躇いも無く切れるなんて。
否もしかしたら悩んだのかもしれないけれど、それでも結果的にそれらを全て捨てて天界に帰ってしまった。
「私はそんなことしたくないです」
そんな生半可な気持ちで結婚なんかしたくない。
そんな潔く人を見捨てて行きたくなんかない。
「…衣玖、」
「だからどうか、お止め下さいませんか」
本音だ、正真正銘の。
その伝説の二の舞になるようなことは絶対にしたくないという、本音。
こんなに自分の意見を述べるのは久しぶりかもしれない。今まであまり自分というものを主張していなかったから。
「……」
天子は答えない。何かを考え込むように、衣玖をじぃと見つめている。これは受理か、それとも拒否か。
「羽衣を取るのはやめてあげる」
漸く、彼女の口が開いた。どうやら受理をしてくれたようだ。衣玖はふぅと一息吐いて、また肩をすくめる代わりに力を抜く。
「けど、貴女を私でいっぱいするのはやめない」
「え」
なんだ、それ。
ポカンと間抜けに浮かべた表情を天子は薄く笑う。なんて無防備なんだろう、おかしいからひとつ口付けを落としてみた。
「っ、」
彼女が息を呑んだのが判った。
「それで衣玖が私でいっぱいになったら、私に羽衣頂戴ね」
唇を離してにこりと微笑みかけてみたら衣玖は真っ赤になって固まってしまった。天子はまた薄く笑う。時間の問題だ。その内私の所へ来て顔を真っ赤にしながら怖ず怖ずと羽衣を渡してくるだろう。嗚呼楽しみだ、非常に。
「…っ、…」
何か言おうとして、上手く言葉が出てこなかったから渋々呑み込んだ。
つくづく、いやらしい人だと、いやらしいやり方をすると、思う。こんなに人を搔き乱して。
もうきっと、いっぱいなんじゃないだろうか、あなたで。
A lot
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