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プロフィール
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暮雨吉
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 東方(旧作)や音楽などで生きてます。
 ご用の方は以下からどうぞ。
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「ねぇ蓮子」
「なぁにメリー」
唐突にメリーが蓮子を呼ぶ。蓮子は普段通りに答えた。
「あなたは専攻で物理を学んでいるのよね?」
「ええ、そうね」
何を今更確認する必要があるのだろう、そう思ったけれど言わないでおいた。メリーのことだから何かあると思う。
メリーは前髪を耳にかけ、少し低いトーンで声帯を震わす。
「世の中、つまらなくないの?」
きょと、と蓮子は目を少し見開く。鳩が豆鉄砲を食らったみたいだと思ったけれど、まぁそれはそうだろうとメリーは一人自答していた。
「…むぅ」
「あら」
「そんなの考えたこともなかったわ」
ぐいと自前の帽子を目深に被って、蓮子はつぶやくように答える。本当のことだ。
けれど、メリーが訊いたことも本当のことだ。
物理、とはそのままで捉えると「物の理」、つまり物体の全てのことである。それを専攻して学ぶと言うことは物体の全てを知ると言うことで、逆に全てを知ってしまうと全てのことがつまらなく感じてしまうかもしれない。メリーはそこに到ってこうして訊いてきたのだろう。
物理を学ぶことがつまらない、何て。思ったことなかった。と云うか、考えたことがなかった。
「…んん、もしかしたら世の中つまらないかもしれないわね」
「やっぱり?」
「ま、それはあなたと出会わなければの話だけれど」
「…え?」
今度はメリーが目を少し見開く。鳩が豆鉄砲を食らったみたいだと蓮子は思った。ん、さっきの自分はこんな顔をしていたのか。くっくっ、笑いが洩れる。
「な、何よぅ」
照れたように、そして少し怒ったようにメリーが顔を赤らめて睨む。
「物理の全てを以ってしても、あなたの見えている世界が解けるとは限らない。それが私を楽しませてくれる」
笑いながらそういうと、唐突のことだからだろうかあんまり理解できてないメリーがいた。
「つまりね、メリー」

あなたがいるから、世界が楽しく感じるのよ。





  綱 。 








「それはつまり私がいないと蓮子は生きていけないって事ね!」
「…そういうことになるの?」
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そんな顔で笑わないで。
瞬きをしたら消えてしまいそうだから。


強く。強く。強く。
抱き締める。抱き締める。抱き締める。
壊れてしまうんじゃないかと思うくらいに強く抱き締める。
そうでもしないと怖くて。
「早苗?」
声がして、身体を離す。
そこにはきょとんとこちらを真っ直ぐ見つめる瞳があった。
「どうかしたの?」
小首を少しだけ傾げて、可愛らしく訊いて来る。
無知と言うのは罪だと何処かで聞いた気がする。何となく解った気がして堪らなく悲しくなった。
「言いたくないなら、別に言わなくても良いよ」
無言をそう受け取ったらしい。ぽんと優しく手を頭に載せて、同じ様に優しく撫でる。
そして、浮かべるあの笑顔。
怖くて悲しくて切なくて苦しくて思わず涙が出そうになる。いやきっともう出ているんじゃないだろうか。
泣き顔を見せたくなくて彼女の首筋に顔を埋める。
今もまだ彼女はあの笑顔を浮かべているのだろうか。
「諏訪子様…」


お願いだから。
そんな顔で笑わないで。
(その笑顔がとても儚くて)
瞬きをしたら消えてしまいそうだから。


私を忘れないで。



まず何よりも、驚いた。
「す、諏訪子…?」
そのせいで声が震えた。と云うよりも全身が震えている気がする。
目の前の少女は滅多に見せる事のない涙を、しかも自分の目の前で、流しているのだ。驚かない訳が無い。
縋る様に伸ばされたか弱い諏訪子の腕はしっかりと神奈子を捕まえて、独り占めするようにぐいと引っ張る。抗う事すら、忘れていた。神奈子は思う儘に動く。
生温かい涙は服越しにしっかりと伝わる。これが何を意味するのかは、まだ神奈子には解らない。
「何…どうしたのよ、」
ぽすんと優しく細い肩に手を載せる。赤子をあやすように、優しく包み込むように、母親のように、温かく。ひくっ、引き攣った喉の音が聞こえた。
「みんな、」
「みんな…忘れていってしまうの、」
「私の事を」
嗚呼。
そう言う事か。
途切れ途切れの言葉へ、憐れむ様に眼を細めた。
「神奈子は、どうか神奈子だけは、私を忘れないで」
少女の切なる願い。それは耐え切れなくなった証。己が忘却されていく恐怖に。不安に。悲しみに。
「ずっとずっと、私を覚えていて」
震えている細い肩からそっと手を離した。
自分に、この肩に触れている権利は無いと、慰める権利は無いと、縋られる権利は無いと、思ったから。
自分よりもこんなに細く、か弱い少女が長く長くこんな恐怖と不安と悲しみに苛まれていた事に、どうして自分は気付かなかったのだろう。
何処の人間よりも、何処の妖怪よりも、何処の精霊よりも、何よりも、誰よりも近くに居たと云うのに。

まず何よりも、謝りたかった。
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