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「恋はするものじゃなくて堕ちるものよ」
「……は?」
「解らなければ解らなくていいの。そのうち解るはずだから」
お嬢様、切り返す暇も与えずにまさにあっと言う間、彼女は文字通り霧のように行ってしまった。ただ蝙蝠になってゆらりゆらりと飛んでいってしまっただけだ けど。図書館か、地下室か、どちらかに向かったと思う。あとで紅茶をお持ちしなくては。掃除の次にするべき仕事を決めて、行動に移す前にお嬢様の言葉を思 い返した。
恋はするものじゃなくて堕ちるものよ。一字一句間違えずに、それどころかその時のお嬢様の表情、唇の動き、蛇足ながら瞳の中に映った自身の姿かたち、表情 まで覚えている。特に意味はないけれども。長年彼女の側に仕えてきたが、言葉の真意は深く深く、そして宵闇の妖怪が生み出す闇よりも黒く黒く、見つけ出す ことが出来ない。うぅん、いつのまにか顎に手を当て、唸っていた。
「如何謂う意味かしら…」
次いで出てきた言葉に答えるものはいない。それに何処と無く空しさを感じて、一つため息を吐き残っている掃除を再開しようと不意に窓に視線を向ける。水色 の物体が目に入り、目を細めて鮮明に捉えようとした途中に、あの五月蝿い氷精だと気付く。楽しげに大妖精とともに戯れているようだ。
紅魔館のほぼ目の前には広大に広がる紅魔湖がある。五月蝿い氷精はあそこでよく遊んでいるため、姿を見かけるのは珍しくも何ともない。
今日も今日とて遊んでいるのだと少しの間見つめていたら、見覚えのある後ろ姿がその妖精の輪に交ざっているのに気付いた。そいつは妖精と同じように、楽しげに戯れて。
「…何やってんの。あの門番……」
ぴき、厭な音が頭に響く。
それと同時に誰かが湖に落ちる音が聞こえた。
ぎゃあっ、咲夜さんっ!?、といういかにも私に見つかっては不味かったような声の直後に、ナイフを投げつけてそいつの頭にぶっ刺してやった。すこん、実際 音は鳴らなかったものの、もしも鳴ったとしたらそんな音だろう。そいつは悲鳴を短く上げ、その場にしゃがみ込み悶え転げそうになる身体を必死に抑えながら 刺さった部分に手をかざし痛みに耐えている。滑稽、口の端が攣り上がった。
「あううう…痛いです咲夜さぁん…」
ようやく話せる程度まで痛みが落ち着いたのか、しゃがみ込んだままそいつ―紅魔館の門番、紅美鈴はこちらを涙目で見、痛みを訴えてくる。ざまぁみろという 気持ちを込めてもう一本刺す気はなかったものの投げつけてやったらまた刺さった。ぎゃあああ、美鈴の悲鳴が耳を打つ。そしてまた彼女は痛みに静かに耐え る。
はぁ、ため息を一つ吐いて、彼女をじっと見た。流石に二本目はきつかったのだろうか、未だに耐えている。その後ろ姿、正しくは美鈴の服に視線を移す。じん わりと彼女の緑色が深い色へと変わっている。さきほどの誰かが湖へ落ちる音は、彼女だったらしい。予想はしていた。大方戯れていた氷精が悪戯で突き落とし たのだろう、ともにいたであろう大妖精がやるとは考えにくい。ちなみにその五月蝿い氷精どもの姿は無かった。私が来て美鈴にナイフを投げつけた所を目撃 し、慌てた大妖精が氷精とともにテレポートで逃げたのだろう。
「全く…、仕事サボって氷精と遊んで、その氷精に突き落とされてびしょ濡れになって…」
「す、すいません…」
「何なの? 馬鹿なの? そんなに死にたいの?」
「ごめんなさい…」
謝ってばかりじゃなくて、ちゃんと仕事をしなさい。その言葉はため息に呑まれた。はぁあああ、深い深いため息だった。自分でもこんなため息が出るとは思わなかったため、少し驚いた。
「本当なら今すぐ説教だけど、…ほら、冷えるでしょ。こっち来なさい」
大人しく私の元へ来た美鈴の顔を、持ってきたタオルで一先ず拭いてやる。揺れる髪の毛から、水滴がぽたりぽたりと落ちてきた。彼女の身長は私より約頭一つ分ぐらい高いため自然とその水滴は私にかかる。それは張り詰めたようにと冷たかった。
「わっ、咲夜さん、良いですよ。自分でやります」
慌てふためく美鈴を無言で制す。いいから、という思いを目に込めて見つめたら伝わったらしく、少し申し訳なさそうにしながらも為すが儘に身を委ねてきた。私は黙々と作業を進める。
髪の毛を拭くため、帽子を取るように指示する。はい、と答え美鈴は帽子を取り手におさめた。
彼女の身長は私より約頭一個分高い。多少靴で上げ底をしているものの、微々たるものであり背伸びをしなければ、むしろ背伸びをしても届くかどうか。無論その時の私は例外なく背伸びをし、タオルで美鈴の髪の毛を拭こうとした。
そのせつなに、
「なんだか可愛いですね」
ぴたりと体の動きがすべて止まった。文字通りすべて。動作も、呼吸も、思考も。
その時はすべて止まってしまった。
「いつも完璧で大人な咲夜さんが、不器用で子供みたいな背伸びしてるから」
無邪気に笑う美鈴の顔が止まった時の中で妙に映える。それを見たら急に、顔が熱くなった。頬にかかっている冷たい水滴が、ドライアイスのようなつめたさと痛みに変わった。
いつもならすぐに何か言えるのに。
いつもならすぐにナイフを投げつけるのに。
いつもなら、こんな、
「ばっ…!!!」
動転なんかしたりしないのに。
落ち着け十六夜咲夜、落ち着くのよ。そんな気持ちとは裏腹に顔は熱くなるばかりで、言葉は出てこないばかりで、身体は動かないばかりで。
「…? さ、咲夜さん? どうかしましたか?」
気遣う言葉がかけられ、そして困ったような美鈴の顔が少し近づくから思わず俯いた。露骨な反応しかできない自分を呪いたくなった。それから、頭の位置が心 臓と近づいたからか、より一層顔が熱くなってもうどうしようも出来ない。水滴は相変わらず私につめたさと痛みを与えるだけで、冷やしてくれなどしない。
(水も滴る良い女、だったかしら…ああもう、何考えてんの私はっ)
このタイミングで思い出すとは、本当に自分を呪いたい。今度丑の刻参りでも実行してこようか。
(ああ…もう…らしくない…)
こんな状態の私を美鈴はどう思っているだろうか。俯いているから彼女の表情などは見えないけれど、多分慌てふためいてオロオロしてると思う。
そんな暇があるならこの熱を奪って欲しい、その冷えた身体で。
Fall in Love.
(あの時私は彼女に堕ちた。)
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駄目になる。
マエリベリー・ハーンは只管に空気を求める荒い息を、懸命に整えていた。必死で全身に血液を巡らす心臓を、懸命に抑えていた。
流れ出る汗を拭わずに、彼女の視線は暗い地面を見つめている。
こわくなる。
「…は、っ」
触れた手があたたかくて、やわらかかったとか。
垣間見せた仕草や素振りが、とても愛しかったとか。
全部、忘れなきゃ。
全部、忘れないと。
気づいてしまう。
「…は、……」
こわくなる。
すべてが夢で在れば良かった。
そうだったらこんな苦しい思いをしなくてすんだのに。
けれど、これは痛い今で。
「蓮子…」
後に戻れない、痛い痛い刺さった想いに、涙が出そうだった。
(*aikoさんの「二人」を題材に、書いてみました。あれ、なんだかとてもメリーがかわいそうな話に…)
ぐ、と本に手を伸ばす。けれど届きはしない。でももう少しで届きそう。ぐぐぐ、自然とかかとが上がった。けれどまだ届きはしない。魔理沙は悔しそうに一度本を睨み再び手を伸ばした。
「…飛べばいいじゃないの」
そうやって本を必死に取ろうと奮闘している彼女にパチュリーはもどかしくなって声を掛けた。
一応、じゃなくて魔理沙は立派な魔法使いだ、まだ人間だけど。魔法で飛ぶなんて造作もない。だから使えばいいのに、なんで使わないんだろう。別段飛行魔法を知らない訳ではないだろうに。だったら箒で飛んでるのは何って話だ。
声を掛けられた魔理沙はまだ幼さが残る顔をパチュリーに向けた。
「いや、な。もう少しで届きそうなら、自分自身の力で取りたくて」
嗚呼、努力家な彼女らしいな、とパチュリーは頭の片隅で思った。
魔理沙はそう云って薄く笑った後、また本に手を伸ばす。ぐぐぐ、とかかとを上げて背伸びして、必死に必死に取ろうと懸命に頑張っている。それは小さな子供が必死に何かを取ろうとしている姿にも見えて、思わず笑みが零れた。
ホントに、彼女らしいな。
すぃ、とパチュリーは飛行魔法を慣れた手つきで発動させ、いまだ必死に本を取ろうと懸命に頑張っている彼女の方へ近づいた。
その気配に気づいた魔理沙は、近づいてくるパチュリーにきょとんとした視線を向けたのだけれど、彼女はそれを無視した。魔理沙が必死に取ろうとしていた本を棚から取り出し、彼女に差し出す。
はい、と言って、
「もどかしいわよ、見てて」
澄んだ声が図書館に響く。静かな所だから余計に響いた気がする。魔理沙はその言葉に少し苦そうに笑って、差し出された本を受け取った。
「ありがと、な」
「いいわよ別に」
手に入った本を読む為に魔理沙は席へ向かう。その後姿を、パチュリーは見つめる。
(もう少し、なのに。)
(ほんの、少し、なのに。)
彼女と私の背丈は違う。少しだけ、彼女のほうが高い。
私は、
魔法に頼らなければ彼女と同じ目線に立つことも、見下ろす事も出来ない。
(魔理沙、)
嗚呼、もどかしい。